悪人 (著)吉田 修一

  • 2008/02/25(月) 21:20:25

悪人悪人
(2007/04/06)
吉田 修一

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悪人」という表題の意味するところは、最後まで分からない。あるいは途中で頭には浮かんで来ているのかもしれない。「悪いのはこいつなのか?」と。しかし、読み進めていくうちにそれが明確な形となり、薄ら寒いものを感じずにはいられなくなる。我々が日々出会う人、そしてその中から親しくなっていく人、あるいは嫌悪感を抱くようになる人。毎日出会いがある中で、しかし彼ら彼女らが何者であり、何を考えて生きているのかをうかがい知ることは、ほとんどない。

吉田 修一の「悪人」に描かれるのは、人間の醜さ、浅はかさ、そして空しさである。誰かが誰かを軽蔑し、誰かを利用し、誰かを嘲笑する。しかし一方で、そうした世界に身を置きながらも、いつしか純粋な愛情に目覚めてもいく。しかし、それが結実するには、時が遅すぎる。殺人事件そのものは重要性を持たない。犯人も早いうちに分かる。しかし描かれる人間心理は極めて複雑であり、機微に触れるものであるため、登場人物それぞれの思いに同調しようとすれば、私自身の心が潰れてしまいそうになるほどである。人は利己的なものである。しかし利己的であることを自覚して抑えようとする者もいれば、自覚しながら欲望を追及する者もいる。その当たり前の現実に、真正面から目を向けさせる作品だと感じる。

空虚な思いを抱きながら「出会い系」で知り合った祐一と光代が、しかし必要とし必要とされていくうちに愛し合うようになる一方で、しかしどうしても避けては通れない障害が立ちはだかる。物語の後半の、祐一と光代の心のありようが、胸に響く。祐一の引き起こしたことの重大さを忘れ、ただ、彼に、そして光代に心を合わせ、そして心が砕ける。「悪」とは何か。「悪人」とは何か。倫理観や道徳観などといった高邁な言葉を遣うまでもなく、「ああ、悪とはこういうことなんだよな」と思わせてくれた。ストーリー展開の巧みさや、心理描写の巧みさなど、美点は複数挙げることができる。ただ、私は「悪人」が示してくれた人の心の貧しさに、最も感謝するのである。

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